王宮に爆弾が置かれた日
ゼノの言葉を聞いた瞬間、国王の思考は完全に止まっていた。
(……今、何と言った?)
王女殿下のそばに、置いていただきたい
確かにそう聞こえた。だが、それは褒賞として口にする願いではない。
王は長い人生で数え切れないほどの褒賞を与えてきた。
領地を望む者。
爵位を望む者。
金銀財宝を望む者。
騎士団への任官を望む者。
だが――。
(王女のそばを望んだ者など、おらん)
王は思わず隣に立つ息子を見る。エドワルドも目を見開いている。
(……聞き間違いではなかったようだ)
横からは、「ゼ、ゼノ……!」というグラナート公エルネストの悲鳴にも似た声が響いた。
(ああ、父親も知らなかったか)
この瞬間、王は一つだけ理解した。これは仕組まれた話ではない。息子が勝手にやらかした。その被害を真正面から受けたのが父親である。
(気の毒にな……)
そう思った瞬間、
「父上、褒章とはそのようなものでしょう」
エドワルドが静かに口を開いた。
(助かった)
王太子が口を開いたことで、王は即答を避ける時間を得た。この場で王が返事をすれば、それは国王としての正式な判断になってしまう。
エドワルドが一度場を受け止めてくれたおかげで、ようやく冷静に考える余裕が生まれた。
(……とはいえ)
視線の先では、ゼノがまっすぐこちらを見ている。
迷いも。打算も。一切ない。だからこそ困る。
(正直者というのは、時として一番始末が悪い)
王は静かに息を吐いた。
「グラナート公、少し時間をもらえるか」
それが、この場で出せる唯一の答えだった。

▶ 内緒話にもどる